わたしの意地悪な弟
 亜子は不思議そうに利香が自分がさっきまで座っていた席に座っているのを見ていたが、前をちらりと見て目を伏せる。彼女の口元がわずかに緩んでいた。

 上映までの短い間だが、岡部君が振り返ると亜子に話しかけていた。亜子の表情から緊張しているのは感じ取れたが、頬を赤らめ楽しそうだ。利香のもくろみは一応成功したのだろうか。

 上映開始のサイレンのあと、亜子は利香と目を合わせると、照れながら会釈していた。

 映画が終わるとわたし達は外に出る。

 今まで暗い場所にいたためか、いつも以上に眩い日差しが瞼の裏を叩き、腕を後方に投げると凝り固まった体を伸ばす。

「お茶でもしようか」

 亜子の提案でわたしたちは近くのカフェに入ることになった。

 亜子一押しの店で、店内に食べる場所はあるが、カウンターにはケーキが並び、持ち帰りにも対応しているらしい。

 わたしたちの入れ違いになるように、ケーキの箱を持った人が出て行く。

 おみやげというのもいいかもしれない。
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