わたしの意地悪な弟
「本当、相変わらず可愛くねえ女」

 そんな言葉を如実に示すかのように、今を楽しむかのような邪悪な笑み。

「可愛くない女と一緒に登下校をしようとする樹も相当のものだと思うけどね」

 彼が扉から離れ靴を脱ごうとしたときに、閉ざされた玄関が開く。

 そこからロングヘアの少女が顔を覗かせ、大きな目を見開いていた。

 彼女はわたしたちに声をかけると靴を脱ぐ。

「今日は早かったね」

「バスが運よく遅れて、一本早いのに乗れたの」

 妹の日和は目を細めると、家の中に降り立った。階段に足を延ばしかけた彼女を、樹が呼び止める。二人は樹が隣に並ぶのを待ち歩き出す。

 他愛ない日常を日和に語っていきかせているのだ。

 そんな樹にはさっきまでの邪悪な表情は欠片もない。

穏やかなまるでわたしのクラスメイトにでも見せびらかしているような笑みだったのだ。

妹と同じ幼稚園生として彼を知っていたとき、彼はわたしにもそんな笑顔で接してくれていた。

だから、再婚して彼が弟になれば、そんな笑みを浮かべてくれると信じて疑わなかったのだ。
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