わたしの意地悪な弟
「やっぱり樹を連れてきたほうが良かったのかな」

 わたしを見て利香は肩をすくめる。

「樹君も千波と映画を見たかったんだよ」

「そうなの? あれだけ行きたくないと言っていたのに」

「千波とね。いつも家で会えるだろうけど、たまには一緒に出掛けてみるのもいいかもよ。親睦を図るためにね」

「樹は素直じゃないもんね」

 利香はわたしの言葉に目を見張る。だが、すぐに「そうだね」と返事を返していた。

 わたしは樹の好きそうないちごショートを買うと、家に帰ることにした。

 リビングにも人気がなかったため、わたしは樹の部屋に直行して、ノックする。

「なんだよ」

 樹は壁に肘を当てると、不機嫌そうな表情で顔を出す。

 彼の表情に臆しそうにはなるが、わたしはケーキを差し出した。

「お土産」

 樹はあっけにとられたような顔でわたしを見る。

「まだ気にしていたんだ。別によかったのに」
< 72 / 287 >

この作品をシェア

pagetop