わたしの意地悪な弟
 彼はそう言い、手を出そうとしない。

 いらないと言いたいのだろうか。

 せっかく買ってきたのに、選んでいた時間を全否定された気がして、しゅんと肩を落とした。

 自分で食べるか、日和にあげるかにしたほうがいいのだろうか。

 でも、日和に状況を説明するのは少し心苦しい。

 そのとき手が伸びてきて、わたしのケーキの箱を持ち上げる。

「分かったよ。もらっておく」

「ありがとう」

「お礼を言うのは俺のほうだと思うんだけど。お礼を言っておくよ」

 困ったように言った樹の言葉に苦笑いで返す。

 じゃ、と言い、部屋の中に入ろうとした樹の腕をつかんだ。

「次の週末、映画、身に行こう」

「はあ?」

 樹は不快そうな目でわたしを見る。

「利香から聞いたの。樹も映画見たかったんだよね。気付かなくてごめんね」

 樹は短く息を吐いた。

「お前、同じ映画を二度も見る気かよ。それこそ金と時間の無駄じゃないか?」

「そんなことないよ。面白かったから、二度見ても楽しめると思う。別の映画でもいいよ」

「別に映画なんて見たくないよ。行きたかったら、最初の時にそう言うと思わない? ただ券があって誘われたんだから」
< 73 / 287 >

この作品をシェア

pagetop