わたしの意地悪な弟
両親の結婚の前に顔合わせをしたとき、いつものように樹はわたしの傍に寄ってきた。
笑顔で挨拶をしようとしたとき、彼はにっこりと笑い、わたしを新しい部屋に連れて行ってくれた。新しい部屋に驚き、部屋を一瞥して、樹を見た。
「これからお姉ちゃんと仲よくしてね」
だが、彼はいつもの愛らしい表情を崩し、皮肉めいた笑みを浮かべているのに気づいたのだ。
「お前なんて姉とは思ってないよ。ブス」
そう言われ、わたしは凍りついた。
時間が止まり、何もいえず彼を凝視していた記憶は今でも鮮明に残っている。
「樹君、お姉ちゃん?」
そう母親に連れられ、二階に来た日和と母親を見て、樹は再び愛らしい笑みを浮かべる。
「日和ちゃんの部屋はこっちだよ」
そういうと、樹はわたしの部屋を出て行った。
最初は母親になって変わったわたしの母親のことを憎んでいるのではないかとも思った。
だが、彼は日和にもわたしの母親にも穏やかな人間性を崩すことはなかった。
彼のそんな態度はあくまでわたし限定だったのだ。