わたしの意地悪な弟
 彼はそうわたしに言ったけれど、やっぱりすっきりしない。

 二人で行きたい場所に行ったほうがいいに決まっているのだ。

「樹はどこに行くのかはどうでもいいんだよ」

 わたしがその気持ちをぶつけようとすると、樹の部屋の入口から声が聞こえてきた。

頬を火照らせた日和が髪の毛をタオルで拭きながら、扉の所に立っていたのだ。

「それってわたしとがそうしろって言ったから?」

「事情は知らないけど、わたしは樹の本心をお姉ちゃんに教えてあげたの」

「日和、お前さ」

「わたしは樹のために行ってあげているのよ。この前だって」

 なぜかその脅迫めいた言葉に、樹の動きが止まる。樹は日和に甘い。

 わたしが言うとふざけるなと言われそうだ。

「二人でデートでもするの?」

「違う」

「違うよ」

 日和の問いかけに、ほぼ同時に否定する。

 デートというと、恋人同士の関係を連想してしまうためだ。

「この前、映画に行けなかったから、その代わりにどこかに行こうと思ったんだ」

「それが動物園か。いいんじゃない?」
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