わたしの意地悪な弟
彼は店員さんから受け取った紙袋をわたしの手に押し付けた。
「お金、払うよ」
「人が並んでいるから」
わたしはそう促され、列を外れる。
そこでお金を渡そうとするが、彼はそれを受け取ろうとはしない。
「俺がおごるよ」
「でも、悪いよ。入園料も払ってもらったんだもん」
「だからもう払ったからいいって」
わたしたちのやり取りが大きかったのか、列に並んでいる人たちがこちらを見てくすりと笑う。
微笑ましいという笑い方だったが、わたしの体が妙な熱を持つのが分かった。
恋人同士とでも勘違いされているのだろうか。
「ここで押し問答を続けても俺は別にかまわないけど」
わたしの同様に気付いたのか、樹はそうさらりと言ってのける。
「そういうつもりじゃないけど」
「なら、早く食べよう」
彼はわたしの腕を引くと、さっさと店の外に連れ出した。
わたしたちは近くのベンチに座ると、樹の買ってくれたホットドッグを食べることにした。