わたしの意地悪な弟
 門の中に入ろうとしたわたしの手を樹がつかむ。

 思わず樹を見ると、彼の頬がわずかに赤く染まっている気がした。

 彼の表情はあの夕焼けの日に迎えに来てくれたときを連想する。

「出かけたいところがあったらたまに付き合ってやってもいいよ」

「大丈夫だよ。遊びに行くのは一人だと気が退けるけど、買い物とかは平気だもん」

 彼なりにわたしを気遣っているのだろう。だから、これ以上気を使わせないために、そう答えた。

「お前は危なっかしいからついていってやるんだよ」

 危なっかしいか。別に迷子になった経験もない。

 そのとき、利香の言っていた言葉が頭を過ぎる。

 樹なりにわたしと仲良くしなろうとしているのだろう。わたしも樹にもっと歩み寄ろうと思ったのだ。

 こうした些細な積み重ねが、きっとわたしたちには大事なのだから。

「分かった。お願いしようかな」

 樹なりにわたしとの距離を縮めようとしているのかもしれない。

 わたしは彼の優しさにあまえることにした。
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