わたしの意地悪な弟
 その日からわたしと樹の姉弟としての関係が微妙に変わったのだ。

 樹はわたしが一人で出かけようとするとついてくるため、わたしも樹を遠慮なく誘うようになっていた。

 わたしは靴を履くと、リビングに向かって呼びかけた。

「樹、まだ?」

「お前、人使い荒いな」

 水色のシャツを着た樹は、リビングから出てくると靴を履く。

「嫌ならいいよ。一人で行く」

「行かないとは言ってないよ」


 その時、リビングから母親が顔を覗かせ、目を細める。

「最近、二人は仲良いわね。昔に戻ったみたい」

「わたしもそう思う」

 わたしは母親の言葉に満面の笑みを浮かべていた。

 振り返ったわたしの視界に居心地の悪そうな顔をしていた樹が映ったのは言うまでもない。
< 93 / 287 >

この作品をシェア

pagetop