キミはまぼろしの婚約者
「ううん、あんまり。でもなんとなく雰囲気がイケメンそう」

「それ顔見たらガッカリするタイプじゃないの?」

「……ありえる」


ありさとふたり、なんとも勝手で失礼な会話をして笑ってしまった。

その後も、私はいろいろな想像をしながら彼を眺めていた。退屈な始業式が終わるのも早かった気がする。


しかし。

さぁ教室へ戻ろうという時になって、こちらを向いた彼を見た私は。

一瞬、電流が流れたような衝撃が走り、身体も思考も、すべてストップした。


切れ長だけど大きな二重の瞳、すっと通った高めの鼻、女の子のような桜色の唇。

その綺麗な顔が、四年前に見た、私の特別な存在である彼の面影を十分残していたから──。



「…………り、つ?」


無意識に、震える声を漏らした。

彼は、動けなくなっていた私を追い越し、体育館の外に向かってどんどん歩いていってしまう。

はっとした私は、海姫ちゃんと話しているありさを置いて走り出した。


「あれ、小夜っ!?」


ありさの声を背中に受けながら向かったのは、転校生の彼ではなく、もうひとりの幼なじみのもと。

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