キミはまぼろしの婚約者
君を守るべき人は
夏休み目前のある日。
昼休みにクラスの男友達と購買へ向かった俺は、ひとつ残っていたカレーパンを見付けて、思わず辺りを見回した。
今日は、あの子はいない。
そのことに、安堵と、寂しさを感じている自分に呆れる。
彼女を突き放そうと、ずっと前から決めていたというのに。
この尋常じゃない胸の痛みも、覚悟していたはずなのに……。
「逢坂、今日はちゃんと買えよ」
ぼうっとしている俺に、友達のひとりである窪田(くぼた)が、ぽんと肩を叩いてきた。
それに乗っかって、小宮山(こみやま)がおかしそうに笑いながら言う。
「間違って嫌いなあんバタサンド買うって、お前案外ボケてるよなー」
小夜と鉢合わせして、とっさにカレーパンをゆずった以前の失敗を覚えていたふたりに、「うるせ」と返して、俺も笑った。
幼なじみのふたりと再会して、無理があるとは思ったけど、ずっとシラを切っていた。
本当は嬉しかったよ。ふたりとも俺のことを覚えていて、すぐに会いに来てくれたこと。
俺だって、ふたりのことを忘れたことなんて一日もなかった。
だけど、大切な人達だからこそ、この先のことを考えると一緒にいるのが辛いんだ──。