キミはまぼろしの婚約者
「俺ら先食ってるわー」


そう言って、俺達の横を窪田と小宮山が通り抜けていく。

俺達がたまに話していることを知っているふたりだけど、特に詮索してくることはないからありがたい。

軽く手を振って教室に入っていく彼らを見送ると、「ちょっと来い」と言って、キョウが歩き出す。

複雑な心境になりつつ、俺も後に続いた。


小夜と話した時と同じ、屋上に繋がる階段の踊り場で、キョウが足を止める。

いつものようにしらばっくれようと、壁にもたれ掛かった俺はふっと鼻で笑う。


「本当にこりないね、君達は。俺なんかに構ってたら時間の無駄……」

「もうやめろよ。そうやって逃げんの」


ぴしゃりと言い放たれた言葉で、俺は小さなため息を漏らして口を閉じた。

彼のまっすぐな瞳から目を逸らす俺は、本当に逃げてばかりだ。


「お前、俺達のこと覚えてたんだろ? 最初からずっと怪しかったぞ。何で忘れたフリしてたのかは、どうせ教えてくれないだろうから聞かねぇけどさ」


腕を組む彼にぶっきらぼうに言われ、目を伏せたまま再会した時のことを思い返す。

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