キミはまぼろしの婚約者
転校先に小夜達がいるかもしれないということは一応想定していたが、まさか本当に同じ高校になるとは思わなかった。

そしてふたりが俺に会いに来た時、とっさに知らないフリをしようと決め込んだ。

でも、そりゃバレるよな。俺は役者じゃないんだから。


久々に小夜を見た時、彼女は俺が想像していたよりずっと綺麗になっていて。

思わず見惚れそうになったし、ものすごく緊張した。

軽い男を演じれば、自ずと離れていってくれるかもしれないと思ったが、あまり効果はなかったようだ。


そして、次に現れたのは今目の前にいるコイツ。


『どれだけ小夜のこと傷付けたと思ってんだよ』


キョウに言われたその一言は、自覚していたものの、直接言われるとかなりの衝撃だった。

胸に深く刺さったそれは、ずっとなくなることはない。

きっとこれからも、何度も自己嫌悪に襲われるだろう。


「小夜の気持ち、どうして受け止めてやらないんだよ?」


眉を下げたキョウに、こうやって言われている今も、胸が痛くて仕方ない。


「律だって、今でも小夜が好きなくせに」


しっかり見抜かれているものの、そう簡単に素直になれない俺は、渇いた笑いをこぼした。

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