キミはまぼろしの婚約者
「わかったようなこと言うなよ」

「わかるよ。俺もお前と同じ気持ちなんだから」


即座にきっぱりと返されて、今度はキョウに対しての罪悪感が湧き上がる。


キョウも、ずっと前から小夜のことが好きだったもんな。

昔はそこまで気にすることもなく、俺が先に告白してしまったわけだけど。

コイツの気持ちを汲み取れる今となっては、やっぱり申し訳ないことをしたと思う。


少しの沈黙が流れた後、キョウが独り言みたいにこんなことを呟く。


「お互い想い合ってんのに、何でうまくいかねーかな……」


……本当に優しいやつだな。

自分より俺達のことを考えて、悩んでくれるお前は、俺なんか足元にも及ばないくらい、いい男だよ。


「……なぁ、キョウ」


自発的に4年ぶりに名前を呼ぶと、目線を落としていた彼は、ぱっと顔を上げて俺を見据える。


「自分に好きな人ひとり守るだけの力もないって知った時、それでもお前はその人と一緒にいたいと思うか?」


キョウが俺みたいな立場になったら、どんな選択をするんだろう。

ふと思ってたずねると、彼の目がわずかに開かれた。

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