キミはまぼろしの婚約者
とりあえず教室へ戻ろうとやっと動き出した私達は、お互い神妙な顔をしていた。
私の心臓は、まだ早いスピードで脈を刻んでいる。
「あの人、4組に来た転校生なんだって。名前はまだわかんないけど」
「まさか……アイツ、戻ってきたのか?」
腕を組んで呟くキョウと、私も思うことは同じだ。
四年前、小学校卒業と同時に隣県へと引っ越してしまった彼が、またこの街に……?
動揺とときめきの両方でドキドキが治まらない。
そんな私の肩に突然ぽんっと手が乗せられ、はっと我に返った。
「ちょっと小夜、どうしたの? 急に走り出して」
いっけない、ありさのことほったらかしにしてた!
不満げに口を尖らせている彼女に、私は苦笑しながら両手を合わせる。
「ごめん、ありさ! あのね……転校生くんが、ちょっと律っぽくて」
「えっ、“律”って……ふたりの幼なじみの?」
私とキョウを交互に指差すありさに、私達はこくりと頷いた。
ありさには中学の頃から話していたもんね。
幼なじみで、私の初恋の相手の、逢坂 律(おうさか りつ)くんのこと──。