キミはまぼろしの婚約者
病気の宣告をされた後も、周りの友達には誰にも明かさずにいた。
しかし、手が震えたり歩き方が変だったり、薬の副作用で具合が悪くなったりと、まだ病との付き合いに慣れていないあの頃は隠すことは難しくて。
皆が心配してくれることはありがたかったけど、同情されたり迷惑をかけたりするのが嫌で、いつしか自分の殻に閉じこもるようになっていた。
小夜やキョウと連絡を取らなくなったのも、理由は同じ。
いや、ただの友達以上に、ふたりとは距離を置きたかった。
俺に確実に訪れる未来を知っているから、親密な関係を続けるのが辛かったんだ。
だから地元には戻らないつもりだったのだが、やっぱり病院に通うことを考えると近い方がいいと皆に説得されて、今に至る。
症状に慣れてきた今は、学校では明るく振る舞っていられるけど、それ以外では人付き合いが悪いと思われているだろうな。
それでも、普通に歩けるようにしたくて、整体に通ったり軽い運動はするように心掛けている。
そのせいか、症状が出始めた頃よりは歩き方もスムーズだし、薬が効いている間なら健常者と変わらないと、自分では思う。
──ただ、ゆっくりではあるが、症状が進行しているのは確実だ。