キミはまぼろしの婚約者
昔は暑かろうが寒かろうが、関係なく外で遊んでいたけど。

今は運動する時間を決めているから、それ以外の時は引きこもりがちになってしまう。

重い身体をなんとか起こすと、越はクッションに腰を下ろし、意気揚々と提案してくる。


「久々に釣りでもしに行くか? 今の時期、アジが釣れるんだよー。それかバーベキューするのもいいな」


子供を誘う父親か。と、クスッと笑いつつ、懐かしい記憶を蘇らせる。


「昔、よくバーベキューやったよな。皆で集まって……」


小夜やキョウの家族も一緒に、わいわいやっていたあの頃は、本当に楽しかった。

遠い日へと目線をさ迷わせる俺に気付いたらしい越は、優しい口調でこう問い掛ける。


「戻りたいか? あの頃に」


……戻れるものなら戻りたい。

大好きな仲間と、何も考えず、ただただその時を目一杯楽しんでいた子供の頃に、戻れるものなら。

そんな俺の心を見抜いたように、越は穏やかに微笑む。


「いつでも戻れるんじゃないか? 変わらない仲間がいるんだから。あとは、お前が甘えることができれば」

「甘える?」

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