キミはまぼろしの婚約者
その意味がいまいちわからず、首をかしげた。

俺と向き合った越は、少しだけ切なげな表情をする。


「お前は何でも我慢しすぎだ。我慢しなきゃいけないことの方が多いだろうけど、甘えた方がいい時だってもちろんある」


彼は「よっこらしょ」と若々しくないことを呟いて立ち上がると、俺の頭に手を伸ばしてくる。


「甘えられて嬉しい人だっているんだぞ? 俺みたいに」

「ぅわ」


面倒見のいい兄は、わしゃわしゃと俺の髪を撫で回して笑った。


「恭哉くんや小夜ちゃんも、絶対俺と同じタイプだと思う」


腰に片手をあてて自信満々に言う彼を、俺は髪をボサボサにされたまま、目を細めて見据える。


「あてにならねー……」

「失礼なヤツだな」


整った顔をムッとむくれさせるから、思わず笑ってしまった。


甘えられて嬉しい……か。

風邪をひいたり具合が悪い時に、誰かを頼りたくなるのは普通だし、俺もそうだった。

でもなぜか、自分の病気のことを知ってから、考えることは逆になっている。

< 127 / 197 >

この作品をシェア

pagetop