キミはまぼろしの婚約者


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   逢坂 律さま


 久しぶり。元気?
 毎日暑いけど、体調崩してませんか?


 夏になると、よく律の家でえっちゃんにかき氷を作ってもらったよね。

 ブルーハワイのシロップで舌を真っ青にして、
 キョウも一緒に大笑いしたっけ。

 秋は集めた落ち葉を投げ合ったりして。
 今思えば、くだらないことが楽しかった。

 冬は雪で遊んでかじかんだ手を、
 律が握って温めようとしてくれた。

 律の手だって同じくらい冷たかったのに、
 私にはあったかく感じたんだよ。不思議だね。



 ねぇ、律。やっぱりダメだよ。

 えっちゃんに、“律のことは忘れてほしい”って言われたけど……

 こんなにたくさんの思い出をくれた律を、
 忘れることなんてできないよ。

 私達は、人生の半分以上一緒にいたんだから。


 他に好きな人ができた?
 私のこと、嫌いになった?

 もしそうなら、はっきり言って。

 どんな理由でも、ちゃんと受け止める。
 律を思い出にできるように頑張るから……

 お願いだから、ひとりで終わりにしないで。


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