キミはまぼろしの婚約者

 * * *


翌週の、小夜の誕生日。

俺は初めて花屋に足を踏み入れていた。


何かプレゼントを贈りたいと思うのだが、今の小夜には何をあげたら喜ぶのかわからない。

とりあえず、プレゼントといえば……と考えて、真っ先に思い浮かんだ花を探しにやってきたというわけだ。

かと言って、花束はなんだか大袈裟だし、キザだし……。


悩みながら店内を見て回っていると、目を惹かれるものがあって立ち止まった。

小さなガラスの靴に、ピンクと白のバラが入った、綺麗で可愛らしいプリザーブドフラワー。

こういうの、女子は好きそうだな……。


小夜の嬉しそうな顔が自然と頭に思い浮かび、俺の口元も緩む。

喜んでもらえることを願って、そのガラスの靴を手に取り、レジへ向かった。



紙袋を持って店の外に出た時、時刻は午後2時。

小夜の連絡先を知らない俺は、とりあえず彼女の家に向かうことにした。

ここからなら歩いて十分くらいだから、たいした距離じゃない。


今日は少しだけ痛む右足を気にしつつ、ゆっくり歩いて彼女の家に着いた。

外観は昔と変わらず、懐かしい。

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