キミはまぼろしの婚約者
小夜はいるだろうか。

急に緊張しだして、ひとつ深呼吸をしてから、意を決してインターホンを押した。

少しして『はい』と出たのは、彼女のお母さんだ。


「こんにちは。逢坂といいますが、小夜さんは……」

『もしかして律くん!?』


すぐにわかったらしく、俺が返事をする間もなく、駿足で玄関に出てきてくれた。

俺を見るなり、感激したような笑顔を浮かべる彼女。


「やだ、久しぶりじゃなーい!」

「お久しぶりです。元気でしたか?」

「相変わらずよ。律くんはすっかりイイ男になっちゃって~」


ニコニコ笑うおばさんは、おばさんと呼ぶには失礼な気がするほど若々しくて、昔と変わらなかった。

俺を覚えていてくれたことも嬉しい。


「突然どうしたの? 小夜に用事?」


そう聞かれ、少し背筋を伸ばして頷く。


「はい。今いますか?」

「それが、今日は友達と会うって出掛けちゃってるのよ」


申し訳なさそうに言うおばさんだけど、俺もその可能性はもちろん考えていた。

けれど、少し肩を落としてしまうのは否めない。

< 136 / 197 >

この作品をシェア

pagetop