キミはまぼろしの婚約者
いつもならこんな時間に薬が切れることはないのに……と考えていると、ついこの間薬の種類を変えたことが思い当たった。

その量や服用のタイミングが、まだ身体に合っていないのかもしれない。


不安が湧いてくるが、今ここで立ち止まってもどうしようもない。

予備の薬は一応持ち歩いているものの、むやみに飲んでいいわけじゃないし。


……まだ大丈夫。まだ歩ける。

そう自分に言い聞かせて、重い足をなんとか動かした。


今日は曇っていて、いつもより気温は高くない。

それでも、暑さのせいではない汗が、額や背中を伝う。

念のため持っていた、ペットボトルの水を飲む手も震え出した。

それを落としそうになりながらも、大事なプレゼントだけはしっかりと持つ。


「はぁ……つら……」


無意識に、弱音が口からこぼれた。

熱中症なのか、病気のせいなのかわからないが、だんだんめまいまでしてくる。


喫茶店まであと5分くらいのところに来た頃には、誰が見てもわかるくらい足を引きずって歩いていた。

幸い、人通りの少ない抜け道を教えてもらったから、あまり人とすれ違うことはなかったけど。

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