キミはまぼろしの婚約者
……しかし。
お母さんからの連絡が来てからもう50分は経つというのに、まだ律は姿を現さない。
「遅いねぇ」
ありさが、壁に掛けられたアンティーク調の時計を見上げて言った。
飲み物のカップ以外はすべて片付けられたテーブルに肘をついて、海姫ちゃんがたずねてくる。
「小夜ちゃんの家からここまでってどれくらいなの?」
「歩いて20分とちょっとくらいだけど……」
「道に迷ったか?」
コーヒーを飲みながらキョウが言った。
家からここまでの道順は、そんなに難しくないから迷うことはなさそうだけど……。
「私、そのへん見てくる」
少し心配になって腰を上げると、ありさがにっこり笑ってこんなことを言う。
「これで会えたら、そのままデートしてきなよ。あたし達のことは気にしなくていいからさ」
「えぇ?」
戸惑う私に、皆は「いってらっしゃーい」と、そろって手を振る。
これで律にそんな気がなかったら、私ものすごくみじめなんですけど……。
口の端を引きつらせながら、とりあえず「行ってきます」と言って、ひとりお店を出た。