キミはまぼろしの婚約者
蒸し暑い外に出ると、曇り空から少しの晴れ間が覗いている。

いつもより暑さは和らいでいる気がするけど、それでも長時間外にはいたくない。


「律、どうしたんだろ……」


家からここまで来る道は二通りあるけど、お母さんが教えたのはたぶん近道の方だろう。

こんな暑い中、わざわざ遠回りさせないだろうし。

そう推測して、踏切がある方へと向かう。


もし会えなかったら、お店に戻ってキョウから連絡を取ってもらおうか。

……でも、なんだろう。なんだか、胸騒ぎがする。

言いようのないざわざわとしたものを感じて、自然と早足になっていた。


踏切の警告音が鳴り始めるのを聞きながらわき道に入る。

すると、小さな踏切のあたりに人がいるのが見えた。その人以外、周りには誰もいない。

あれは……


「律?」


それらしき姿を見付けて、ほっとしたのは一瞬。

近付くにつれて、様子がおかしいことにすぐ気が付いたから。


膝に両手をついて、今にも倒れそうに見える彼がいるのは、遮断機が下りた踏切の中。

線路の上で、一歩も動こうとしない。

明らかに異常だ。

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