キミはまぼろしの婚約者
「……律っ!?」


カンカンカンと怖い音が鳴り響くそこに向かって、彼の名前を叫んで駆け出した。

遮断機のバーを潜り、彼のもとに駆け寄る。


「律! 大丈夫!?」


身体を支えるように腕を回すと、彼は顔を上げて目を開いた。

汗が流れて、ひどく顔色が悪い。


「……な、んで……」

「いいから、早く!!」


とにかくここから出なくちゃ!

律の身体を抱えながら引っ張る。


「バカ……逃げろ……!」

「律を置いていけるわけないじゃん!」


苦しげな声を漏らす律に叫ぶと、彼も私に掴まり、足を引きずりながら必死に動かした。


遠くから電車の音が聞こえてくる。

お互いに息を荒げながら、がむしゃらに身体を前へと進める。

どんどん音が近付いてきて、頭の中はパニックだ。どのくらい進んだかも、線路の中にいるのかどうかもわからないくらい。

その時、私の足がもつれた。


「きゃっ……!」


律と一緒に、ドサッとその場に倒れ込んだ瞬間。


──ガタンガタンガタン!!


大きな音が、私達の後ろを通り過ぎていった。

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