キミはまぼろしの婚約者
えっちゃんもすぐに表情を曇らせて、声のトーンを落とす。


「でも、今日は特別調子が悪かったみたいだね」

「あんなふうになること……よくあるの?」


さっきの律の姿を脳裏に蘇らせて、胸の中で不安と心配を膨らませながらたずねた。

えっちゃんは「そんなことないよ」と言ったものの、難しい顔をしたまま。


「薬の服用のタイミングや量が合わないと、吐き気や幻覚とかの副作用が出るんだ。その時の精神状態だったり、人によって症状は違うみたいだけど……律はすくみ足が復活しちゃったみたいだね、今日の状態を聞くと」


だから、踏切の真ん中で立ち止まったまま動けなくなっちゃったんだ……。

あの時、私が彼を見付けていなかったらと思うとゾッとする。


「ついこの間、薬の種類が変わったらしいから、それでかもな。少量の違いで症状が出るから、コントロールが難しいんだ。いつ、どれくらいの量を飲むのか、律が自分自身でちゃんと把握して、うまく付き合っていかなきゃいけない」

「そんなに難しい病気なんだ……」

「あぁ……。ま、今日は暑さにやられたせいもあるかもしれないけど。これだから出無精は困るよ」

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