キミはまぼろしの婚約者
口を尖らせるえっちゃんだけど、弟想いなのが伝わってきて、少しだけ笑いがこぼれた。


「じゃあ、薬を飲んでいれば症状は抑えられるってこと?」


そんなに副作用が出てしまうのは怖いけど、気をつけていれば大丈夫なのかな。完治はしないとしても……。

えっちゃんは、ほんの少し口角を上げて答える。


「薬が効いている間は、普通に生活できるよ。寿命には関わらないから、他に病気や事故に遭ったりしなければ長生きできるし」

「そうなんだ……!」


余命があるようなものではないと知って、私はあからさまに安心してしまった。

一方、えっちゃんの声は明るくならないまま、「でも」と言葉を繋げる。


「症状は確実に進行する。何年もかけて、すごくゆっくりとだけど。何十年先かわからないけど、将来寝たきりになるのは避けられない」


──一瞬、目の前が暗くなる感覚がした。

律の身体が徐々に侵されていくのが、確実だなんて。

言葉をなくす私に、えっちゃんはさらに現実を突き付ける。

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