キミはまぼろしの婚約者
曇った未来に、幸せひとつ
えっちゃんから話を聞いた後、彼が「どうぞ」と言うので、私は律の部屋に入らせてもらった。
顔色はさっきよりも良くなっていて、穏やかに寝息をたてている彼を見て、少し安心する。
夕日でオレンジ色に染まる、シンプルで男の子らしい部屋を、ぐるりと見回してみる。
小学生の頃は、サッカーボールやユニフォームが目につくところにあったけど、今は見当たらない。
チームの皆や、私達と撮った写真ももう飾ってなくて、寂しい気持ちになった。
本棚には律が好きな漫画が並んでいて、その一番端に、漫画ではない本が何冊かある。
背表紙には、若年性パーキンソン病という文字。
病気についての解説書や、患者さんの闘病記のようだ。
律もこの病気の患者なのだと改めて思うと胸が苦しいけど、私ももっと詳しく理解したい。
少し目を通してみようと、本を引き抜いた時。
その本の隣にあった、見覚えがある箱を見付けて、私は動きを止めた。
「これ……」
思わず小さな声を漏らして、お道具箱みたいなそれにそっと手を伸ばす。
可愛らしい赤いチェック柄のその箱は、律が引っ越す前に私やキョウがあげたものだと、すぐに思い出した。