キミはまぼろしの婚約者
愛する君と誓いのキスを
「おはよー」
「あー眠い……」
「ねぇ、数学の課題やった?」
いつもと変わらない、クラスメイトの雑談が飛び交う新学期の朝。
私はこれまでと少し違った気持ちで教室に入った。
自分の席に荷物を置いたありさは、ニッコニコしながら私の席にやってくる。
「いやーもう本当によかったねぇ、小夜~~!」
「お前それ何回目だよ」
一緒に登校したキョウが、ありさに呆れた声を投げた。
でも、彼女はそんなこと気にせず、私に抱きついている。
「だって嬉しいんだもん! 小夜の長かった恋が報われてさー」
「ありがとね、ありさ」
私もすっごく嬉しいよ。
律とまた気持ちが通じ合えたことも、ありさがこんなに喜んでくれることも。
夏休み中に、ふたりには電話で律とのことを話していた。
病気のことは、律が自分から話すと言っていたから濁しておいたけど。
こうやって会うのは久々だから、ありさはテンションが上がっちゃっているらしい。
私は、そんな彼女からキョウに目線を移して微笑む。
「キョウもありがとう。いっぱいお世話になりました」