キミはまぼろしの婚約者
「でも、逢坂くんが離れようとしてたのも、小夜との将来をちゃんと考えてたからでしょ。それってすごいことだよね」


……そう。私はずっと、当たり前みたいに律だけを想っていたけど、それと同じように彼も想ってくれていた。

それって、奇跡みたいなことなんじゃないかな。

私も感慨深い気持ちで、「そうだね……」と返した。


ありさはなんだか目を輝かせて、うっとりしながらこんなことを言う。


「結婚式楽しみだな~」

「えー、気が早いよ」

「そうでもないんじゃない?」


軽く笑うありさだけど、からかっているような感じではなかった。


律も来年18歳になる。

法律上は結婚できる年になるんだと思うと、プロポーズされたあの頃では夢でしかなかったことが、急に現実味を帯びてくる。

彼との未来が、どんどん確かなものになればいい。

私には、何の迷いもないから。


「これから先も、もし何か悩んだりしたらちゃんと相談してね。あたしも逢坂くんの病気のこと、もっと勉強するからさ」


優しいありさの言葉が、じんわりと胸に染み渡る。

……律、あなたの味方はたくさんいるよ。

少しだけ泣きそうになりながら、私は「ありがとう」と頭を下げた。


< 178 / 197 >

この作品をシェア

pagetop