キミはまぼろしの婚約者
キョウのおかげ?

やっぱり私が知らない間に、ふたりは話していたのかな。


「病気になってから、いろんな考え方がネガティブになってて。“頭はしっかりしてんのに、何で身体が言うこときかないんだ”、“俺は人に迷惑かけるばっかりだ”ってずっと思ってたんだよ」


胸がきゅっと締め付けられるのを感じていると、彼は「でも」と言葉を繋げる。


「今は“大切な人のために、制限のある俺には何ができるかを考えるためにこの頭があるんだ”って思えるようになった。だから、ありがとな」


律の声は、明け方の空みたいに澄んでいて、私の胸の締め付けもなくなっていく。

キョウが何を言ったのかはわからないけど、律の気持ちを変えるくらいの影響力があったんだろう。

さすが、親友だね。


「……ようやく気付いたか」


穏やかな声色のキョウは、次にこんなことを言う。


「でも、律がそうやって考えてるってことが、小夜にとっては一番幸せなんじゃねーかな」


トクン、と優しく鼓動が波打った。

キョウの言う通り、私は何もしてもらわなくても、律のその気持ちがあれば十分嬉しい。

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