キミはまぼろしの婚約者
──ドキン!と、大きく心臓が跳ねた。


だ、抱きしめられてるー!

しかも私のこと、“婚約者”って言ったよね……!?

驚きで、金魚みたいに口をパクパクさせる私は、絶対あほづらになっているに違いない。


「り、りり律……!」

「はいはい、邪魔者は退散するわー」


さらに呆れたように脱力しきったキョウは、後ろ手でバイバイしながら階段を下りていく。

けれど、途中で足を止めて、私達を振り返った。


「……これで俺もやっと先に進めそうだよ、律」


そう言うキョウは、どこかふっ切れたような笑みを浮かべていて。

足取り軽く去っていく彼を、私は首をかしげて見ていた。


「何のこと?」

「んー、小夜は今わからなくてもいいかな」


何なんだろう、それ。気になるんだけど……

ってそれより、まだ抱きしめられたままだった!


「あのっ、律、この手を……」

「あぁ、ごめん」


ごめんと言いながら離す気はないようで、まだ私は包まれたまま。

ドキドキが治まらない私の髪に、律は顔を埋めるようにして言う。

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