キミはまぼろしの婚約者
「思ったんだよ。自由に動けるうちに、たくさん小夜を抱きしめておこうって」

「っ……」


そんなふうに言われたら、拒むことなんてできないよ。

……まぁ、こうされてるのは、本当は私も嬉しいんだけど。


「この格好も、小夜らしくないけど可愛いし」

「……それ褒めてる?」

「もちろん」


彼に閉じ込められたまま笑っていると、腕の力がぎゅっと強められる。


「もう少し……こうしてていい?」

「うん」


甘えるような律に愛おしさが湧いてきて、私は彼の頬に頭を寄せた。



日が暮れるのが早くなり、いつの間にか空はオレンジから薄紫色のグラデーションになっている。

もう後夜祭も始まった頃だけど、私達は階段に座ってしばらく話していた。

キョウが、『お前が考える小夜の幸せと、アイツが考える幸せとでは、きっとズレてんだと思うよ』なんて言っていたということも、今聞いて驚いている。


「そっか、キョウがそんなことを……」


びっくりだけど、とっても的確。

だから律は、考え方を改めることができたんだね。

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