キミはまぼろしの婚約者
「さっき言ったのも、冗談じゃないからな」


さっき言ったことってどれ?

と考えている間に、彼は真剣な眼差しできっぱりと言う。


「俺には、小夜との将来しか考えられない」


それを聞いて、すぐに“婚約者”という嬉しくて恥ずかしい言葉を思い出した。

またひとつ、夢が現実に近付く。

でも私、もうすでに胸がいっぱいで、すごく幸せだよ。


「……私も。誰に何を言われても、絶対律のそばを離れないから」


手を握り返して、力強く言った。

すると、律の空いた方の手が、私の頬にあてがわれる。


ぴくりと跳ねる肩、赤く染まる頬。

私のそれを見て、愛おしそうに細められる彼の瞳。

それが、ゆっくりゆっくり近付いて──

そっと、唇が重なった。


少しだけ唇を離して、見つめ合って照れ笑いを浮かべたら、今度はもっと深く……。

初めてのキスは、ものすごくドキドキして、誓いのキスみたいに神聖だった。



きっと、結婚を現実にするには、まだたくさんの問題があるだろう。

だけど、ふたりなら乗り越えていける。

もう何があっても離れないって、私は信じてる。




< 185 / 197 >

この作品をシェア

pagetop