キミはまぼろしの婚約者
4組に仲の良い友達はいない。

だから普段は、どんな用事でも彼らのクラスの人を呼び出すのは多少緊張してしまう。

でも、今日はそんなことも気にせず、戸口にいた男子に声を掛けていた。


「あのっ、律……逢坂くんはいますか!?」


私の勢いに驚いたらしく、ぽかんとする彼。

数秒間を置いてから「あ、あぁ」とぎこちなく頷いて、教室の後ろの方に向かって名前を呼んだ。

それに反応して、男女数人に囲まれるその人が、こっちにぱっと顔を向けた。


その瞬間、ドキン!と大きく心臓が跳ねる。

あの頃と変わらない、整った顔。ラフにセットされた優しいブラウンの髪。

だけど、男らしくなった姿は、子供の頃よりもいっそう素敵に見えた。


目が合っただけで、呼吸が止まりそう。

席を立った彼は、皆の注目を浴びながら近付いてきた。

どんどん縮まる距離に比例して、心臓の動くスピードは速くなる。

そして、目の前に来た時には、私の意識の中には彼以外の存在が消える。


「り、つ……」


震える声で名前を呼ぶと、胸の奥から熱いモノが急激に込み上げた。

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