キミはまぼろしの婚約者
「……はい。俺も、祖母が同じ病気でしたから」


律は声のトーンを落としながらも、はっきりと言った。

お父さんは、頷きながら身体を前屈みにして、手を組んで言う。


「もしかしたら、産まれた子が、君と同じ思いをすることになるかもしれない」


考えていたことだけど、やっぱり胸に刺さる。

お父さんも反対するのかな……?

不安がよぎったものの、次に彼の口から出たのは意外な言葉。


「でもそんな心配をするのは、正直あまり必要ないかなと思うんだ。たとえ健康体でも、事故で障害を負うこともあるからね。生きていれば、大なり小なり、必ず何かしらの苦しみはあるもんだ」


明るい声色のお父さんは、わずかに笑みを見せた。

その反応に少しだけ驚いて、すっと顔を上げる私達。


「大事なのは、そうなった時にどう生きていくか。子供にそれを示してあげるのが君達だ」

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