キミはまぼろしの婚約者
両親への挨拶が済んだ後日、私の誕生日に、律とふたりで海に来ていた。
夏真っ盛りで暑いけど、手を繋いでゆっくり砂浜を歩く。
律は薬を飲む量は少しだけ増えたけど、まだまだ普通の生活を送ることができている。
こうしている何気ない今、一分一秒が、私達にとっては宝物だ。
「キョウは来月こっちに戻ってくるんだっけ?」
「あぁ。“早く帰りたい”って、そればっかり言ってるよ」
波音に、私達の笑い声が混ざり合う。
高校卒業後、キョウもありさも別々の道に進んだけれど、相変わらず連絡はとっている。
ありさは実家の喫茶店で働いているから、今もよく遊んでいるけどね。
転勤で隣県に行っているキョウが戻ってきたら、また皆で会いたいな。
思い出の場所で足を止めて、昔と変わらない景色を眺める。
「プロポーズした時から、もう十年以上経ったんだな」
「いろいろあったね……」
律が感慨深げに言い、頷く私。
海は変わらないけど、私達は大人になった。その間にあったこと全部、大切な思い出だ。