キミはまぼろしの婚約者
「病気になってからこれまで、何度も投げ出したくなった。いっそ死にたいって思うこともあったよ。先が見える恐さって、時々絶望感を大きくさせるから」


本音を漏らす律を、私は眉を下げて見上げる。

けれど、彼の表情はとても晴れ晴れとしていた。


「でも、皆のおかげで気付いた。俺は、すげぇ幸せなやつだって」


私も彼を見上げたまま微笑んだ。

障害に負けることなく、強くまっすぐ背筋を伸ばして、ひまわりみたいに咲き誇っている。

そんな彼は、澄んだ瞳で私を見下ろす。


「どれだけ辛くても、醜い姿さらしても、俺は生きるよ。……小夜のために、生きる」


力強い一言に、胸を打たれた。

誰かのため、自分のため。

生きる理由は人それぞれだけど、それを見付けた人は、きっともっとたくましくなれる。


唇をかみ、揺れる涙を堪えて、私も頷いた。


「おじいちゃんおばあちゃんになっても、こうしていようね」


そう言った私を、律は愛おしそうに笑って引き寄せ、ふわりとその腕の中に閉じ込めた。

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