キミはまぼろしの婚約者
海で遊ぶ子供達の目も気にせず、私達はしっかりと抱きしめ合っていた。

降り注ぐ光も、穏やかな波の音も、私達を祝福してくれているみたい……

なんて、私幸せボケしてるのかも。


「今すぐキスしたいけど、ふたりきりになれるとこまで我慢するよ」


耳元で甘く囁かれて、照れ笑いを浮かべる私。


「ふふ、うん。あ、プレゼント本当にありがとう!」


少し身体を離すと、さっき渡された小さな紙袋を掲げてみせた。

律は毎年何かしら形に残るものをくれて、すごく嬉しい。

5年前にくれたプリザーブドフラワーも、今も色褪せることなく、私の部屋できらめいている。


「いいえ。見るのは家に帰ってからにしてね。なんか恥ずかしいから」

「えー何だろう?」


わくわくしながら言う私を、彼は微笑ましげに見つめて髪を撫でた。




……その日の夜、家に帰った私は。

左手の薬指にぴたりとはまった宝石に、涙をこぼしていた。

小さな箱の中に輝くそれと一緒に入れられていたのは、一枚の手紙。


そこに書かれていたのは、まさかのお別れの言葉と──

十年越しの、彼の想いだった。


< 195 / 197 >

この作品をシェア

pagetop