キミはまぼろしの婚約者
幼なじみは旦那様じゃありません。
都会に比べ、このあたりでは桜が咲くのが遅い。
二階の私の部屋から見える桜並木も、蕾が開き始めているものの、満開になるにはまだ一週間ほどかかりそうだ。
今日は始業式、明日は入学式が行われ、私も高校生活2年目に突入する。
私、緒方 小夜(おがた さよ)が通う公立高校では、クラス替えがない。
だから、変わったことは教室が二階に移ったことくらいで、変わらない仲間と、いつもと同じように過ごす。
と、いうことは。
「小夜……ちょっと見ない間に太った?」
この失礼発言を淡々と口にする幼なじみ、古畑 恭哉(ふるはた きょうや)とも離れられないわけだ。
休み明けの朝はただでさえ気分が上がらないっていうのに、登校中会ってすぐにこんなふうに言われたら軽くキレますよ。
まぁ、保育園から一緒だから、もうこんなの日常茶飯事なんだけど。
170センチ後半の長身に短めの黒髪、あまり表情が変わらないキリッとした顔立ち。
見た目はクールなイケメンであるくされ縁の彼を、私はじとっと睨みつける。