キミはまぼろしの婚約者
泣きそうになりながら、前は同じ目線だった彼を見上げて、思うがままに言う。


「まさか、こんなふうに会えるなんて……。私、ずっと──」


“待ってたんだよ”と言おうとした矢先、にこりと綺麗な笑顔を浮かべた彼の口から、衝撃の一言が飛び出した。



「君、誰だっけ?」



………………え?

今……何て言った?

“キミ、ダレダッケ”って日本語?


あまりにも衝撃的すぎて、思考回路も、身体の筋肉の動きも、すべて一時停止した。

マヌケな顔になっているだろう私を見下ろし、律は薄い笑みを浮かべたまま首をかしげる。


「どこかで会った? 俺達」


うそ……嘘でしょ?

離れていたと言っても四年だし、私の存在まで忘れるほどの月日だとは思えない。

てっきりまだ名乗っていなかったけど、顔もそんなに変わっていないし……普通わかるでしょ!?


「律……本気で覚えてないの?」

「えー? こんな可愛いコ、一度会ったら忘れないはずなんだけど」


まじまじと顔を近付けて見てくる彼に驚いて、少しだけ身体を引いた。

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