キミはまぼろしの婚約者
夢のようなプロポーズ
律が引っ越す直前、ぽかぽか陽気の三月のある日、私と律、キョウの家族が集まって、海の近くでバーベキューをしたことがある。
親同士も仲が良くて、送別会のような感じで開かれたものだった。
楽しくお腹いっぱい食べた後、私達子供は両親が見守る中、砂浜に絵を描いたり、貝殻を探したりして遊んでいた。
えっちゃんも、キョウの妹も、皆で一緒に。
しばらくして、律が『あっち行こ』と言って私の手を取り、少し皆から離れたところに歩いていく。
当然まだ遊んでいる人はいない、静かで穏やかな春の海を眺めながら、彼はこう言った。
『これで、しばらく会えなくなるね』
その日一日、離れることは考えないようにしていた私は、急激に寂しさが襲ってきた。
泣きそうになって俯く私に、律は前向きな言葉を投げ掛ける。
『でも最後じゃないよ。言ったじゃん、絶対会いに来るって』
『……うん』
力強いその声に勇気付けられ、私は繋いだ手にぎゅっと力を込めて、精一杯明るく言う。
『その時はいっぱい話して、デートしたい』