キミはまぼろしの婚約者

夢のようなプロポーズ



律が引っ越す直前、ぽかぽか陽気の三月のある日、私と律、キョウの家族が集まって、海の近くでバーベキューをしたことがある。

親同士も仲が良くて、送別会のような感じで開かれたものだった。


楽しくお腹いっぱい食べた後、私達子供は両親が見守る中、砂浜に絵を描いたり、貝殻を探したりして遊んでいた。

えっちゃんも、キョウの妹も、皆で一緒に。

しばらくして、律が『あっち行こ』と言って私の手を取り、少し皆から離れたところに歩いていく。

当然まだ遊んでいる人はいない、静かで穏やかな春の海を眺めながら、彼はこう言った。


『これで、しばらく会えなくなるね』


その日一日、離れることは考えないようにしていた私は、急激に寂しさが襲ってきた。

泣きそうになって俯く私に、律は前向きな言葉を投げ掛ける。


『でも最後じゃないよ。言ったじゃん、絶対会いに来るって』

『……うん』


力強いその声に勇気付けられ、私は繋いだ手にぎゅっと力を込めて、精一杯明るく言う。


『その時はいっぱい話して、デートしたい』

< 24 / 197 >

この作品をシェア

pagetop