キミはまぼろしの婚約者
また熱く潤む瞳に映る律の姿は、海に反射する太陽の光のようにきらきらとして、美しすぎた。

夢みたいだけど、彼の言葉はたしかな希望となって、私の胸の奥に届けられる。


『……本当に? 本当に、私をお嫁さんにしてくれるの?』

『ん。ホント』

『約束だよ? 破ったら、毒入りスープ飲ませちゃうからね?』


何度も確認する私に、優しく笑って何度も頷く律。

涙は溢れるばかりだったけど、心は羽毛に包まれたみたいに温かかった。



“結婚”なんて、正直現実味はなかった。

お互いの手にあるのは貝殻だけで、指輪なんてあるはずもない。

ウェディングベルは静かな波の音で、バージンロードは歩きにくい砂浜。

そして、誓いの言葉は、ただの子供の口約束──。


そんなものに、何の効力もない。

だけど、それでも。私にとっては何よりも心強くて、未来に向かっていくための力になった。

固く繋ぎ合った手は、誓いのキスと同じくらい価値のあるものだと、私には思えたんだ。


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