キミはまぼろしの婚約者
『律は送ってくれないのー?』

『だって何書いたらいいかわかんないし』

『何でもいいのに。ほら、“好きだよ”とかでも』


冗談っぽく言って笑うと、律は予想外の一言を返してきた。


『それならちゃんと口で言った方がいいだろ?』


──キュン、と胸が小さな悲鳴を上げる。

そ、そう来るとは!


目を見開いて絶句していると、律はふっと笑いをこぼす。

そして、『好きだよ、小夜』と甘く囁いた。

この瞬間、私の心臓ど真ん中にハートの矢が突き刺さったことは言うまでもない。



この電話で律に言われた通り、何か大きな出来事があったり、話題が溜まった時には手紙を書いて送っていた。

相変わらず彼からの返事はなかったけど、きっと読んでくれていることを信じて。

電話は携帯を持つまでの我慢と言い聞かせ、月一回くらいに留めていた。


早く大人になりたい。

そうしたら、自分の好きなようにできるのに。

そんなジレンマを感じながらも、私と律は順調に遠距離恋愛を続けていた

……はずだった。あの頃までは。

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