キミはまぼろしの婚約者
キョウが向かう先にいるのは、窓際で男子と話している律。

その姿を見てズキンと胸が痛むのを感じながらも、キョウがいったい何をするのか目が離せない。

ハラハラしながら見守っていると、教室内がざわめく中、キョウが律の前に立つ。そして。


「久しぶりだな、律」


無愛想な声がすると、次の言葉を待つかのように皆が静かになった。


「お前、俺のことも覚えてないわけ?」


ここからはキョウの表情はよく見えない。けれど、声には少しの怒りが滲んでいるのがわかる。

驚いたような顔でキョウを見つめる律は、ぎこちなく笑って首をかしげた。


「えーっと……ごめん、誰?」

「古畑 恭哉。キョウって呼んでただろ、言ってみろ」


威圧感のある口調で促す彼をまっすぐ見つめ、律は言われた通りに「キョウ……」と呟く。

けれど、特にピンときた様子もない。

私だけじゃなくて、キョウのことも覚えてないなんて、にわかには信じがたい。


「……本当に忘れてんの?」


困惑した声が聞こえたのもつかの間、突然キョウは律の胸倉を掴んだ。

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