キミはまぼろしの婚約者
さっそくお弁当を取り出す彼は、前の席の机に軽く腰掛けるありさを見上げて一言。


「惚れたか」

「何でそーなる」


いつもの調子のやり取りに安堵して、私はようやく自然に笑えた。


キョウが私の気持ちを代弁してくれて、少しスッキリした気がする。

決して律を責めたかったわけじゃないけど、自分の中だけであの気持ちを閉じ込めておくのは辛かったから。


「キョウ、ありがとう……ってのは、ちょっと違うかもしれないけど」

「別に、お前のためだけじゃないし」


ぶっきらぼうに言い放った彼だけど、小さくため息を吐いて、ぽつりと力無くこう言った。


「アイツに忘れられて悔しいのは、小夜だけじゃねぇんだよ」


……そっか、そうだよね。

自分のことばっかりで、同じ時間を過ごしてきたキョウの気持ちを考えてあげられていなかった。

一番仲の良い親友だったんだもん、私と同じくらいショックだよね。

反省しながら謝ろうとすると、キョウはそれを遮るように、「それにしても」と何かがふっ切れたような声で話を続ける。

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