キミはまぼろしの婚約者
律の手が、私の足に触れる。

ただそれだけで、心臓がはち切れそうなくらいドキドキしてしまう。


「腫れはたいしたことないな、大丈夫」


私の前にしゃがみ、足首を観察する彼から優しい声がした。

その手が、いたわりながら撫でるように滑るから、これだけで痛みが引いていくような気さえする。

でも、緊張がほどけることはないから、紛らせるために何でもいいから会話を続けたい。


「ホームルーム、出なくていいの?」

「もう終わったんだ。今日は特別早くて」

「そっか」


たわいもない話をして、早鐘を打つ胸をなだめている間に、ひんやりとした湿布の上からテーピングが巻かれていく。

それを見下ろしながら、手際の良さに感心していた。


「上手だね。さすが、昔からサッカーやってただけある」

「そうかな、これくらい誰でもできるだろ」


なんてことない、といったふうに軽く笑って、手を動かす律。

伏し目がちな顔もとっても綺麗で、片足をひざまづいて足に触れる彼は、まさにシンデレラにガラスの靴を捧げる王子様みたい。

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