キミはまぼろしの婚約者
半ば諦めモードでいると、キョウがこんな一言を口にする。


「球技大会、どうせサッカー出るんだろ? 律のチームが俺達に勝ったら来い」


……ん? “勝ったら来い”って、なんかおかしくない?

律も微妙な顔で首をかしげる。


「そこは普通、“負けたら来い”って言うとこなんじゃ?」

「負けたりなんかしねぇだろ、お前は」


……あぁ、そっか。キョウは律が勝ちに行くと信じてるんだね。

だから“負けたら来い”なんて命令は意味がないんだ。


「……どうしても来てほしいみたいだな」


ふっと呆れにも似た笑いを漏らした律は、小さく頷くと、挑戦的な瞳でキョウを見据える。


「絶対勝ってやる」

「臨むところだ。ま、俺はソフトボールだから出ないけど」

「出ないんかい」


肩透かしをくらった律のツッコミに、私達は思わず吹き出してしまった。

つられたように律も笑って、私は一瞬昔にタイムスリップしたような感覚がした。

この和やかな雰囲気、すごく懐かしいし、嬉しい。

これからも、こうやって笑い合っていられたら幸せなんだけどな……。


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