キミはまぼろしの婚約者
一方、海姫ちゃんはニンマリとしながら見てくるから恥ずかしくなって、大口を開けて卵焼きを放り込んだ。


「でも逢坂くんと遊べたなんて、貴重な体験をしましたね」

「貴重?」


真木ちゃんの言葉を聞いて、ありさが首をかしげる。

私もごくりと卵焼きを飲み込んで、彼女の話に意識を集中させる。


「彼、女子の誘いは全部断ってるらしいですよ。放課後もまっすぐ家に帰っちゃって、本当に仲の良い男子とごくたまにしか遊ばないって話です」


そうなの? あんなに女子と楽しそうにしているのに……。

男子とだって昔はしょっちゅう遊んでいたのに、そんなに消極的になっちゃったの?


「意外と人見知りなのかな。そうは見えないけど」


海姫ちゃんに同意して頷く私とありさ。

意外な事実を知って眉根を寄せていると、真木ちゃんが思い出したように言う。


「あ、あと腰痛持ちらしくて、整体に通ってるんだとか。部活をしていなかったり、すぐ帰っちゃうのはそのせいですかね」


その話も初めて聞いた。そして、ただ漠然と思う。

もしかして、律が隠している事情には、そのことも絡んでいたりして……と。

皆は「大変なんだねぇ」と言って深く気に留めていないみたいだけど、私には簡単に流してはいけないように思えて仕方なかった。


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