キミはまぼろしの婚約者
「男は逢坂くんだけじゃないしね。ほら、ここにもいるじゃん、アホな男が」

「アホは余計だろ、アホ」


私を挟んで言い合いを始めるふたりを止めもせず、ぼんやりしたまま考えを巡らせる。

キョウもありさも軽い調子だけど、きっと私にすごく気を遣って言ってくれたんだと思う。

もう諦めた方がいいんじゃないかって、誰でも思うもんね。


「……私も、そう思う」


ぽつりと漏らすと、ふたりの声がぴたっと消えた。

私の言葉が意外だったのか、ふたりともぽかんとしている。


……私は、今の律のことをどれだけわかっているだろう。

彼が秘めている謎はもちろん、どうしてまたこの街に引っ越してきたのかすら知らない。情報を仕入れるのはいつも真木ちゃん頼りだし。

距離が近付いていたようで、そんなことはなかったんだと、今さら気が付いたんだ。

私が真っ正面からぶつからないから、彼も本音で答えてくれないんじゃないかな。だから……


「だから、告白する」


スケッチブックに落としていた目線を上げ、たった今思い付いた決意を口にすると。

キョウとありさは目を見開いて、「えぇっ!?」と叫んだ。

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